徹底が「鬼の顔」をますます「鬼の顔」らしくするので(そうなれば社会不安が増し、階級間の矛盾が拡大するので)、これへの対策として「人間の顔」という「心理作戦」(イデオロギー攻撃)が不可欠になっているということだろう。
ところが、「心理作戦」でうやむやにできるほど事態は容易ではない。
後述するように、いま、かつてない大きな矛盾が渦巻いている、各種の意識調査や選挙結果にもあらわれているように国民の多くがそれを自覚しつつあるこれが現実である。
支配層の頭痛の種はふくらむばかりなのだ。
労働者の生活も苦しいが支配層の悩みも大きくなっている。
前者について、非工業的分野の生産性が低く、この改善が必要だといった指摘とともに、つぎのようなことが強調されている。
「社会保障制度の合理化・効率化、国および地方の議員や公務員の削減、公務員給与水準の適正化、政府関連の特殊法人改革、公共事業の見直し等々、政府コストの徹底した前述のように、「人間の顔をした市場経済」などといっても、その中心的なねらいは、「市場経済の徹底」である。
「人間の顔」うんぬんは、結局のところ、そのための環境整備の方策でしかない。
生産性が低かろうと高かろうと、あらゆる分野・領域で「競争原理」をいっそう徹底すべし、これにより「高コスト構造」を一気に打破すべし、これが「報告」の一貫した立場だ。
「高コスト構造」の元凶は、人件費とされている。
つぎのような「報告」の記述が、そのことを如実に示している。
「つきつめれば、「生産性が低いにもかかわらず賃金が高い」分野が多いということである」。
そして、「高コスト構造改善」「人件費の大幅削減」の口実とされるのが、いつも日本経済・日本企業の「国際競争力強化」のため、という論法だ。
2000年版「報告」で、「社会的高コスト構造」という表現が初めて使われ、「企業における高コスト構造」といわばセットで、その「改善」(コスト削減)が最重要課題として提起されている。
「削減が必要である」「社会保障制度については、かねてよりわれわれが主張しているように、年金、医療、介護について、自助・共助・公助のバランスのとれた「中福祉・中負担」を実現すべきである」。
要するに、国民にたいするサービスをとことん切り詰めた、かれらのいう「小さな政府」を実現することが、「社会的高コスト構造」の「改善」の主たる内容になっている。
後者つまり「企業における高コスト構造改革」については、「改革の具体策」と称して、つぎの4点が提起されている。
それらは結局、「企業における人件費削減の4つの手口」ということになる。
第一は、「多様な雇用形態を最適に組み合わせ、経営効率の向上と雇用コストの軽減をめざすべきである」とされている。
これは95年に日経連が発表した「新時代の「日本的経営崖路線のいっそうの普及・浸透を促す内容ですが、「賃下げねらいのワークシェアリング」を織り込むなど、より激しい搾取強化をねらった内容となっている。
にもかかわらず、そのような「雇用ポートフォリオの考え方」は、「報告」では、「働く意志が多様化するなかで、選択肢の多い雇用機会を提供」するものなどと一面的に美化されているのだ。
第2に、「年功的な人事・賃金制度からの脱却を徹底すべきである」とされている。
その主張のポイントは、「年齢・勤続要素に偏重した仕組みを早急に改革する」ことだ。
「報告」は、このことを具体的に、つぎのように述べている。
「若年層の習熟過程は別にして、すべての従業員に対し、企業業績への貢献度に応じた賃金・賞与などの処遇が必要である。
年齢・勤続要素に偏重した賃金制度は右肩上がりのカーブを描くが、業績貢献度に応じた賃金配分によって、賃金カーブのピークは中堅層に前倒しとなり、その後の賃金は個々人ごとにばらつく。
成果に応じて賃金が上がる場合と下がる場合が出てきて、いわゆるラッパ型の分布になるはずである」。
これは賃金体系についての記述だが、それが「企業における高コスト構造改革の具体策」という第4章で、つまり人件費削減策の大きな一つとして述べられている点に注意したい。
いま賃金体系の改悪のねらいは、このように、何よりも、人件費を小さくすることにある。
この立場から「報告」は、退職金についても、「年功より企業への貢献度を反映する制度への改革が重要である」として、2000年4月からの退職給付債務について新会計基準が適用されることへの企業としての対応策や、同年の通常国会で確定拠出年金法案(仮称)を成立させ、既存の退職金・企業年金を新制度にどう移行させるかこうした諸点にたいしても、人件費削減の道を追求している。
また、「長期勤続を過度に優遇する」税制面の「改革」も「報告」は求めている。
ここには人件費削減にくわえて、「労働力流動化」をすすめたいという財界のねらいがありありである。
第3に、「従業員のもてる能力を最大限に引き出し、従業員に充実感を与え、その活用を図ることが重要である」としている。
つづけて、「人材が最も貴重な資源であるわが国としては、優秀な人材を育成・確保し、その能力発揮によって国際競争力を高め、世界に伍していかなければならない」と強調している。
たしかに、労働者のもてる力を最大限に引き出せば、人員の削減を可能にするなど人件費を削減できるだろう。
この観点から「報告」は、「従業員には自らの能力向上のために不断の努力が望まれる」として、いわゆるエンプロイヤビリティ(雇用され得る能力)を向上させるよう、労働者を「叱吃」しているのだ。
第4に、人件費削減策の締めくくりとして「報告」は、「競争力の強化」を口実に「総額人件費」の削減の必要を強調している。
つぎのとおりだ。
「企業の競争力を強化するには、高コスト構造を是正しなければならない。
経営コストのなかで最も比重の高いのは企業の人件費負担である。
雇用を確保するためには、雇用と賃金の積であるこの総額人件費を下げざるをえないことを、労使は客観的に認識すべきである」。
あわせて「報告」は、日経連の70年代からの主張である「生産性基準原理」(マクロ)と「支払能力論」(ミクロ)による賃金抑制の「伝統的理論」を、00年版でも性懲りなく押しだしている。
つまり、「生産性基準原理」というのは、「国全体の実質国内経済生産性の上昇率(実質国内経済成長率)の中期的な動向を基準に賃金上昇率を決めよう」という非科学的な理屈である。
一方、「支払能力論」というのは、個別企業レベルの賃金決定に関する、経営サイドの身勝手な理屈であり、「自社の支払い能力に基づき」賃金を決める、というものだ。
これでいくと、99年の実質国内経済成長率は、7〜9月実績の年率換算で(まだ最終的な数字が出ていないので)、マイナス3・8となり、マクロとしては賃下げしなくてはならないことになる。
そのうえで、これをガイドラインに、直接的には個々の企業の「支払能力」により賃金を決めるというのだが、この「支払能力」なるものがくせものなのだ。
日経連によると、まず、「支払能力」は「中長期的な経営計画」にてらして判断されるというのだから、どうにでも言い逃れができるだろう。
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